酵母を自家培養して焼き上げる「天然酵母パン」 |
単身赴任?している職場の同僚が、百円ショップで2枚のフライパンを買い、1枚を蓋になるように重ね合わせて使い、こねて仕込んだパンを焼き上げているという話を聞きました。パンはオーブンという名のつくもので焼くものとばかり思ってましたが、安物のフライパンで焼きあげたそのパンは、しっかりと普通のパンに仕上がっていました。 びっくり仰天。 w(゚o゚)w そのパンの作り方を聞きましたが、作り方自体はいたってノーマルでした。要は彼の発想の転換というか、なんちゅうか、物事にとらわれない考え方に感服した次第です。
今回はそんなフライパンぱん!?ではなく、自家製の天然酵母パンの作り方です。市販のイーストを使ったパンとはひと味もふた味も違う、香りと愛着を生むパンです。 ← なんでも手がけるとすぐに愛着がわいてしまう幸せな性格… (^_^;)
自家培養の天然酵母を取り出すための基本的な材料
酵母エキス抽出用 | 3通りの方法があります。季節や用意できる材料に合わせてどうぞ | |
方法1 晩夏から秋にお勧め | ぶどう 1房(200g相当) | |
砂糖 ぶどうの重さの1割(20g) | ||
方法2 年中有効だが失敗の恐れ有り | オイルコーティングしていないレーズン 30g | |
水 90cc | ||
方法3 初夏にお勧め というか、自分で仕込んで殺菌未処理の 梅ジュースさえあればいつでも有効 |
発酵しはじめた梅ジュースの原液など 30cc 50g | |
水 50cc | ||
酵母一次培養用 | 全粒粉または強力粉 100g(←エキス80ccあたり) | |
酵母二次培養用 | 全粒粉または強力粉 200g と 水 125cc | |
※参考情報 ・砂糖を手作りするレシピはこちら ・梅ジュースを手作りするレシピはこちら ・小麦粉を調合するレシピはこちら |
一例) 山型食パン(イギリス食パン)を焼くときにパン種に追加する材料 ※ 下記は、上記の材料に追加する分量です。 ※ 強力粉の全量が500gになり、水を加えて全量約850gとなります ※ パン型には650g程度を入れて焼き上げます (残りはパン種か、別のパンとして焼き上げます) |
強力粉 200g | 水 125cc | 塩 8g | バター 20g |
砂糖 10g | スキムミルク 10g | ||
※参考情報 ・小麦粉を調合するレシピはこちら ・塩を手作りするレシピはこちら ・バターを手作りするレシピはこちら ・砂糖を手作りするレシピはこちら |
用意しておきたい器具
ボール | ラップ | ふた付きのビン |
Let’s start!
作り方 | ||
方法 1の 1 |
【方法1 の酵母エキス抽出】 ぶどうについている天然酵母を洗い流してしまわないように、ぶどうを手早くさっと水洗いし、水気を振り落とします。ぶどうを皮ごとつぶしてジュースにしてしまいます。ちなみにぶどうの皮に白く粉状についているものが酵母菌です。農薬ではありませんので、洗い流さないようにしましょう。 |
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方法 1の 2 |
きれいに洗ったコップに、つぶしたぶどうジュースと砂糖をいれて混ぜ合わせます。 | |
方法 1の 3 |
ふたをして常温の部屋で発酵させます。毎日容器を振り、蓋をわずかに開けてガス抜きをします。発酵が始まっていなければ攪拌しても泡立たず、蓋をあけても何の音もしません。発酵が始まると容器を振ったときに泡がたち、ガス抜きをするとプシュッという音がして、アルコールの香りがします。アルコールの香りがしてから夏場で翌日、冬場で2〜3日が経てば発酵の完了です。 | |
方法 2の |
【方法2 の酵母エキス抽出】 レーズンを量り入れ、水を加えて28〜32度前後になるところに置きます。40度以上になるところでは酵母菌の働きは低下し、50度前後で死滅してしまうようです。6月下旬の我が家では、冷蔵庫や食器棚の上部が一番暖かでしたので、冷蔵庫の上部に置くことにしました。 |
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方法 2の |
酵母エキス抽出3日目〜1週間目 レーズンが水を吸って、膨らんできます。毎日容器を振り、蓋をわずかに開けてガス抜きをします。発酵が始まっていなければ攪拌しても泡立たず、蓋をあけても何の音もしません。発酵が始まると容器を振ったときに泡がたち、ガス抜きをするとプシュッという音がして、アルコールの香りがします。3日目以降は1日に2度の割合でビンの上下をひっくり返して、水面からでている部分も液に浸るようにします。アルコールの香りがして2〜3日たち、レーズンが水面に浮いてきたら発酵の完了です。 |
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全て 共通 |
【方法1、2、3 酵母エキスろか】 レーズンと溶液を清潔なガーゼなどでろ過して、汁を絞り取ります。絞った汁が酵母菌のエキスです。このエキスは、冷蔵庫に入れれば2〜3週間保存することができます。右の写真は発酵しかけていた梅ジュースで作った酵母菌のエキスです。こちらは水を加えて2〜5日発酵させるだけですので絞る手間もなくて、楽ですね。 |
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4 | 【酵母一次培養】 発酵エキス80cc、全粒粉(もしくは強力粉)100gをボウルにいれ、こね合わせます。発酵エキスからさわやかなアルコールの香りが立ちこめるはずです。ムムッ、これはおいしい予感!! 手でこねるとまんべんなく混ぜることができますが、べちゃべちゃと手にくっついてしまいます。丈夫なスプーンを使うとよいようです。 ←力を入れすぎて、スプーンを曲げないように (^_^;) |
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5 | 【酵母一次培養での発酵】 乾燥しないようにラップをして8時間(夏場で酵母が活性化しているとき)〜2日(冬場)発酵させます。2倍くらいに膨らめば一次培養のできあがりです。時間的な都合で次の工程にすすめないときには、冷蔵庫に入れて保存します。 |
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6 | 【酵母二次培養】 一次培養したタネに全粒粉(もしくは強力粉)200gと水125ccを加え、こね合わせます。「これは甘酒の香りかな、」 などとワクワクしながら、流し台の天板などしっかりしたテーブルでぐいぐいとこね合わせます。こね終わると手にくっつかなくなります。 |
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7 | 【酵母二次培養での発酵】 乾燥しないようにラップをして6時間(夏場で酵母が活性化しているとき)〜2日(冬場)発酵させます。2倍くらいに膨らめば二次培養のできあがりです。時間的な都合で次の工程にすすめないときには、冷蔵庫に入れて保存します。冷蔵庫でも1週間以上保存する場合には、全粒粉を追加して酵母を活性化させてやります。 |
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【パン 計量】 ここまで培養して作った酵母菌のパン種に、強力粉200g、水125cc、塩8g、バター20g、スキムミルク10g、砂糖10g を加えてこねます。 |
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9 | 【パン 第一次発酵】 乾燥しないようにラップをして1時間発酵させます。 |
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10 | 【パン 成形】 生地を成形して、バターをぬった型にいれます。もし培養して作った酵母菌のパン種を残しておきたいということであれば、分けて冷蔵庫で保存できる最終段階になります。(今回の分量では650g程度をパン型に入れ、200g程度は種として残すか、もしくは別のパンに焼き上げる分量になっています) |
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11 | 【パン 第二次発酵】 さらに1時間発酵させます。2〜3倍に膨らめば発酵完了です。もし膨らみが足らないようなら時間は調整してください。通常イーストで作っていた場合に比べて、ちょっと膨らみすぎと思われるくらいがいいようです。イーストだと焼いている最中にも膨らみますが、天然酵母は発酵に時間がかかるので、焼いている最中の膨らみはあまり期待できません。 |
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12 | 【パン 焼く】 発酵時にオーブンを使っていた場合は、余熱なしで180度、40分で焼き上げます。発酵時にオーブンを使っていない場合には、オーブンをあらかじめ180度に余熱しておき、30分で焼き上げます。オーブンにもいろいろなクセがあるので、残り5分になっても焼き色がつかないときは温度を190度に上げます。 |
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13 | 【パン 焼き上がり】 できあがりです。欧米の食事に欠かせないワインとパンですが、これらはいずれもぶどう酵母で発酵させたものなんですね。こうなるとチーズは!?と質問が飛んできそうですが、ちょっとチーズは異質でして、子牛から取り出すレンネットという酵素で固めています。 |
ここでのコツ
※1 【自家培養の天然酵母】
イーストも元をたどれば天然酵母です。酵母を英訳したものがイーストであるのはもちろんですが、一般に日本ではイーストと呼ばれているものと、天然酵母とは区別されています。イーストは糖を栄養分として培養し、その製造工程の中でリン酸や窒素が添加されていることが多く、天然酵母と呼ばれているものは、全粒粉などを栄養分として培養し、リン酸や窒素は添加されていないものを指すようです。
※2 【発酵しはじめた梅ジュース】
梅ジュースの作り方は、こちらにあります。梅ジュースそのままの原液では糖分が高すぎるため、酵母菌はその糖度の高さゆえ、活発に活動することができません。たとえある程度アルコール発酵できても、活力は弱いままですから、自分自身が生成したアルコール成分に除菌される形で活動を停止してしまいます。そこで、梅ジュースの原液に水を加え、酵母菌が最も活動しやすい糖分濃度にしてやります。このような環境では酵母菌は活発に活動をはじめ、酸素のある環境では有酸素呼吸をして、酸素が不足すると無酸素呼吸に変わりアルコールを生成しはじめます。酵母菌を活発にさせようとすると酸素を与えることになりますが、酵母菌のエキス抽出時には雑菌を滅菌するために、無酸素呼吸をさせてアルコールを生成させます。酵母菌は他の雑菌に比べてアルコールに対して耐性があることを利用しているのです。
※3 【強力粉】
在外邦人の方向けに、小麦粉の種類についてこちらで詳しく説明しています。
※4 【酵母一次培養】
酵母のエキスでも、酵母を一次培養した後のものでも、どれでもパンにすることはできます。でも培養して増やした方がたくさんのパンにすることができますね。
※5 【アルコールの香りがします】
発酵に失敗して、「腐敗」した場合、この香りは嫌な匂いになります。もしちょっとでも変だな、と思ったらあきらめて、次に期待しましょう。体をこわしてもしかたないですよぉー!
※6 【水を吸って、膨らんできます】
もしレーズンが水面からでているようだとカビてしまいます。水を追加してレーズンが水からでないようにします。
※7 【ガス抜きをするとプシュッという音がして】
ガス抜きをするときに入れ替わりに酸素がビンに入り込みます。このわずかな酸素でもって酵母菌は活性化します。酵母菌は酸素がなくなればアルコール発酵になるわけですが、酵母菌を活性化させるにはこのガス抜きによる酸素の補給が大切になります。酸素を補給してやることで酵母菌に活力を与え、また酵母菌が無酸素呼吸をしはじめたときに生成するアルコール成分の働きで、カビなどの雑菌を滅菌するわけです。
※8 【全粒粉を追加して酵母を活性化】
酵母に与える「えさ」としては、強力粉のように不純物の少ないものよりも、全粒粉が良いとのことです。これは 「全粒粉にはビタミンなど様々な栄養素が含まれていますが、精白した強力粉では酵母が生きていくための栄養素に偏りがあるため」 ということですが、上記の写真は強力粉を使ったものであり、強力粉でも十分に元気な酵母菌を培養できているのがわかります。
※9 【200g程度は種として残す】
この種を使って、再びパンを焼く場合は、項番6の【酵母二次培養】からとりかかることができます。あとは応用すれば、山型食パン(イギリス食パン)以外にも使えますので、イーストを投入したあとの生地だと思って、いろいろ他のパンにもチャレンジできます。その場合もこの天然酵母は、発酵時間がかかることだけは念頭にいれて、イーストを使ったレシピよりも長く時間をとり、膨らみ加減で判断するようにしてくださいね。
※10 【警告】
注意喚起です。手作り食品のなかでも発酵食品は、器具や器具を扱う手などに雑菌がついていると思わぬ事故を招く場合があります。衛生には十分に気をつけて、楽しい食品づくりを心がけるようにしましょう。また、嫌な臭いがちょっとでもしたら口にするのは止め、廃棄する勇気をもちましょう。何事も自己責任の意識をもって行動してください。
参考文献)
木のひげ http://www.din.or.jp/~kinohige/ さんの
「木のひげ」のパン(天然酵母・国産小麦) http://www.din.or.jp/~kinohige/kinohige_koubo.htm