手に入らない小麦粉は作っちゃえ |
食材に使われている原料として、世界における小麦粉の 消費量は、トップに位置しています。そんな小麦ですから、世界のあちらこちらで生産地されており、販売されている名称も様々です。当サイトでも主食としては、うどんや ラーメン、スパゲッティー、パンで使いますし、他にも醤油や焼麩、ガムの原料として紹介しています。そうそう、お好み焼き、たこ焼き、グラタンも小麦粉で作りますね。
こんな小麦ですが、国によっては販売時の名称がいろいろあって、お店に並んでいる小麦が、どういった用途に適しているのか、または適していないのかという問題が多々見受けられましたので、一度ここでまとめてみることにしました。
この表さえあれば、強力粉に相当する小麦粉と、薄力粉に相当する小麦さえ入手できれば、どんな小麦も調合できることになりますから、百人力のはず。これで手打ちうどんをワールドワイド化させましょう。
ヽ(^。^)丿
1.【小麦粉について】
小麦粉の種類について説明する前に、小麦粉の種類はどうしてできるのか、、についてお話しておきましょう。まずは、小麦粉の組成です。小麦粉にはおおよそ、約75%を占めるでんぷん質と、7%〜13%のタンパク質、2%の脂質、14%の水分、そして灰分、微量のビタミン、ミネラルが含まれています。
2.【小麦でんぷん】
小麦の70%もの割合を占めるでんぷんですが、このでんぷん質には、アミロースとアミロペクチンの2種類があります。日本で栽培されている薄力粉や中力粉、強力粉といった小麦粉の種類によって、このでんぷん質の含有率の差はほとんどありませんが、でんぷんの粒の大きさは、粉の種類毎に異なり、次のようになっています。
1.薄力粉では極細かい
2.中力粉では細かい
3.強力粉では粗い
これらの粒の大きさは、前述のとおり、でんぷんの成分の違いではなく、また粉にするときの製法上の差でもありません。小麦の粒に由来する、「小麦の硬さ」という本質的なものです。小麦を硬さで分けると、硬質小麦と軟質小麦に分けられます。
硬質小麦は、でんぷん粒とその他の物質が固く密着しており、粉にしたときに、いくつかのでんぷんが固まりのまま砕け、でんぷんにも傷がついてしまいます。この傷があることで粉の吸水性が高まります。
また、軟質小麦は、でんぷん粒とその他の物質のつながりが弱く、粉にしたときに、ほぼ無傷のままでんぷん粒をばらばらにすることができます。このため、粉の粒は極細かくなりますが、でんぷん粒としては無傷であるため、吸水性は低くなります。
こういった粒の大きさは、単純に薄力粉だから全て極細かく、強力粉だから全て粗いというわけではありません。薄力粉にも粗い粒を含みますし、強力粉にも極細かい粒を含みます。薄力粉では、極細かい粒の割合が大きいというに過ぎません。(※こういった粒の大きさの分布を 「粒度分布」 といいます。)
↑まるで 「土のはなし」 みたい。そのうち、コンクリートの話しに変わったりして…。
このページの最終目的は、様々な小麦粉を調合することによって、入手できない小麦粉をゲットしてしまうことにありますが、 ここで説明したでんぷん粒の大きさによる違いが影響し、天ぷら用途等にする場合には、思い通りにならないことがあります。 日清製粉さんのページには、 次のような説明がありました。
強力粉、中力粉、薄力粉の品質は蛋白質(グルテン)の量だけで決められるものではありません。量と質によって決められます。更に二次加工適性によっても決められます。 それぞれ粉は原料小麦が異なり、強力粉は硬質小麦、中力粉は中間質小麦、薄力粉は軟質小麦からできています。それぞれの粉は原料小麦の性質がそのまま出ており、 例えば同じ強力粉で蛋白質等の分析値が同じでも、原料小麦が異なると二次加工適性が違ってきます。従って、強力粉と薄力粉を混ぜて中力粉と同じ数値にすることは 出来ますが、二次加工適性や品質は同じになるとは限りません。なるべく目的にあった小麦粉をお使いになることをお勧めいたします。 |
3.【小麦に含まれるタンパク質】
小麦粉に含まれるタンパク質は、「小麦粉」のままでは、グリテニンとグリアジンという物質となっています。この小麦粉に水分を含ませて練ることにより、これらの物質がくっつきあい、グルテンという粘り気のある物質に変化します。これが、うどんのコシになるわけです。このタンパク質の含有率の違いを小麦粉の種類毎に分けると、表-1.小麦粉の種類 のようになります。
表-1.小麦粉の種類
※注意 小麦粉のグルテン含有量は、小麦粉の等級や調合方法
により左右されるため、上記の表は目安としてお使いください。
4.【小麦粉に関係するその他の分類】
1.Self-Raising Flour:あらかじめベーキングパウダー(膨らし粉)が入っている粉のこと
2.Bleached(←→Unbreached):酸素、塩素ガスなどで漂白したもの。Unbreachedは、漂白をしていないもの。
3.Whole Wheat Flour(Graham Flour):全粒粉
グルテンをあまり含んでいない粉で、通常グルテン粉(Gluten
Flour / Vital Wheat Gluten Flour)や、強力粉でグルテンを補って使います。
4.Gluten Flour / Vital Wheat Gluten Flour:グルテン粉 グルテンを80%以上含んでいる粉で、中力粉や強力粉のグルテン量を増やすような、調合用として使うようです。
5.Gluten Free:小麦粉のグルテンがアレルギー因子になることがあるため、小麦粉類を一切含まない粉です。原料としては、米やオート麦を使っているようです。
6.Starch:片栗粉相当のでんぷん粉
(Potato Starch:じゃがいもでんぷん、Corn
Starch:とうもろこしでんぷん)
7.番外編 Buckwheat Flour:そば粉
5.【やってみなきゃわからない ゲストまかせの企画】
小麦粉の組成については、だいたいわかったかと思います。で、いきなりですが、小麦粉を調合して作ってみましょう。
ガム作りのように、小麦粉からグルテンを取り出すと、でんぷんが残りますよね。一般に、でんぷんは片栗粉として売っていますので、ガム作りの過程を逆に応用して、グルテンと片栗粉を混ぜれば、いろんな種類の小麦粉が作れるはずです。日本ではグルテン粉(Gluten Flour / Vital Wheat Gluten)の入手は困難ですが、強力粉ならどこにでも売っています。ということは、強力粉と片栗粉とを混ぜ合わせれば、中力粉や薄力粉相当のものを作ることができるのかも…?
ということで、なんでも頭で考えるだけで止めてしまうのではなく、とにかくやってみようの企画です。
強力粉2の割合に対して、片栗粉1の割合で混ぜると、グルテンの量は7.7%〜8.7%になるはずですので、この調合粉は薄力粉もしくは中力粉相当となります。とは言っても、2.の【小麦でんぷん】の項で説明しているように、吸水性や、でんぷん粒の大きさの違いがあるため、厳密には、若干特性が異なります。これを良しとするか、そうでないかは個人の考え方次第ですが、オーストラリア在住のFroggyさんの場合は、中力粉とグルテンを調合して、強力粉を作られているようですので、やってみて損はない… (^_^;)
と、そんなこんなで、在外邦人向けに小麦粉の調合案を作ってみました。不都合があれば、お知らせ下さい。(実体験に基づいた、みなさんからの情報が貴重です)
表-2.小麦粉の種類不足を補填するための調合案
作る粉 | 用意できるもの | |||||
でんぷん粉と グルテン粉 |
中力粉と でんぷん粉 |
強力粉と でんぷん粉 |
強力粉と 薄力粉 |
薄力粉と グルテン粉 |
中力粉と グルテン粉 |
|
強力粉 を作る |
でんぷん粉100対、 グルテン粉20 |
− |
− |
− | 薄力粉100対、 グルテン粉9 |
中力粉100対、 グルテン粉6 |
中力粉 を作る |
でんぷん粉100対、 グルテン粉13 |
− | 強力粉100対、 でんぷん粉45 |
強力粉100対、 薄力粉200 |
薄力粉100対、 グルテン粉3 |
− |
薄力粉 を作る |
でんぷん粉100対、 グルテン粉10 |
中力粉100対、 でんぷん粉30 |
強力粉100対、 でんぷん粉85 |
− | − | − |
※でんぷん粉には、小麦でんぷん粉(浮き粉)相当のものを用意します。入手できれば小麦でんぷんの浮き粉がベストですが、コーンスターチや片栗粉が使えます。尚天ぷら等の揚げ物で使うならコーンスターチがおすすめのようです。それは、でんぷんの性質上、次表のように片栗粉に比べてコーンスターチの方が粘りが少ないためです。
表-3.でんぷんの粘りと硬さ |
高橋禮治「でんぷん質食品の食感」『高分子』50巻 10月号 2001 |
※一般にでんぷんとして調合することが多いと予想される「片栗粉(じゃがいもでんぷん)」の特性は次のとおりです。
・でんぷん粒子は極めて大きい(平均直径が20-70μm(米デンプンは5μm))
・他のデンプンに比べてじゃがいもデンプンは糊化温度が低い(ほぼ60-64℃で糊化)
・保水力が大きい
※グルテン粉には、Gluten Flour や Vital Wheat Gluten と表示されたものを用意します。
※上記表は、強力粉や中力粉等に含まれるグルテン量の基礎数値を表-4.のように仮定しました。
表-4.小麦粉調合計算時のグルテン基礎数値
強力粉 | 中力粉 | 薄力粉 | グルテン粉 | でんぷん粉 | |
グルテン含有割合(%) | 13% | 9% | 7% | 80% | 0% |
※粉の保管状態により、グルテンは著しく劣化(もちもち感がなくなり、製麺したときにちぎれやすくなる)します。このため、保管状態の良くない粉を使う場合は、グルテンの実質的な含有量が減少していることを考慮することをお勧めします。
例)1.強力粉から中力粉や薄力粉を作る場合は、加えるでんぷん粉の量を減らす。
2.グルテン粉を添加して、強力粉や中力粉を作る場合は、グルテン粉の量を増やす。
※ありゃー、手打ちうどんのページでは、中力粉がない場合の対処策として、強力粉2に対して薄力粉1を推奨していましたが、上記の表では、逆の比率になってしまった。どっちが正しいのでしょう?
いろんなサイトをみましたが、手打ちうどんの場合は、コシの強さをだすために、強力粉7に対して、薄力粉3にしているものが多いようですので、レシピの方があっているですが…。じゃ、上記表に誤りがある?
参考文献
財団法人 製粉振興会 さんの 小麦粉のおはなし
麦育種研究室さんの小麦粉の種類と小麦製品
共立女子大学 栄養学研究室さんのわかる基礎栄養学
ニッスイさんの小麦粉食品のさまざまなテクスチャー