【1.はじめに】
砂糖のちからときたら、やっぱり塩のちからを書かずにはおられません。元々このシリーズを書きたくなったのは、食べ物に塩を入れるのは、こんな理由があったんだ!! という発見があったからです。塩は、食べ物に塩辛い味を加えるだけでなく、いろいろな働きをしています。野菜の発色を良くしたり、微生物の発酵を手助けしたり、タンパク質を固めたりと、もう、数えはじめたらきりがないくらいです。
塩の作り方 |
また料理のレシピ本を読んでいると、どうしてこんな作業をするんだろう、と疑問に思うことが少なくありません。面倒だなぁと思って手抜きをしたときには、やっぱり味が悪かったりします。そんなときには、塩の使い方が悪かったことも1つの要因になっているかもしれません。
いいあんばいという言葉がありますが、あんばいとは「塩梅」と書きます。読んで字のごとく、塩と梅(ここでは酢)のバランスのとれた状態をいっているのです。塩の使い方を極めて、毎日の食事をいいあんばいにしていきましょう。
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【2.塩の製造方法】
岩塩から取り出す方法や、海水を煮て取り出す方法、海水を電気のちからで分離して取り出す方法などいろいろあります。
2−1.岩塩(採掘法)
日本にはありませんが、地層のなかにある岩塩を、鉱物資源を掘り出す要領で採掘します。岩塩層が地表に露出している部分では露天掘りも行われます。
2−2.岩塩(溶解法)
同じく日本にはありません。地層のなかにある岩塩に水を流し込んで飽和食塩水を作りだし、真空蒸発缶にて結晶化する方法です。
2−3.揚浜式塩田
1.浜辺の一段高くなった部分に海水を撒き、
2.日射と風のちからで乾燥させ
3.この砂を集めて上から海水をかけて飽和食塩水を作りだした後、
4.これを平釜で煮詰め塩を結晶化させます。
2−4.入浜式塩田
瀬戸内海地方で17世紀から行われていた方法になります。
1.遠浅の海岸を使い、潮の満ち引きを利用して、海水を浜辺の砂に引き込んで塩田を作り、
2.日射と風のちからで水分を蒸発させて、塩をつくります。
2−5.イオン交換膜電気透析法
イオン交換膜に電気を流し、塩水に溶けたナトリウムイオン(Na+)と、塩素イオン(Cl−)を透析して、抽出する方法です。日本で古来から行われていた揚浜式塩田や入浜式塩田にくらべ、広大な浜辺を必要とせず、安価にかつ、安定して塩を供給することができます。しかし、塩化ナトリウムの純度が高く、自然界の海水に含まれる塩のバランスと大きく異なり、塩辛く、とんがった味がするのが特徴です。
では、何故こんな塩辛いだけの塩がこんなにも蔓延しているのでしょうか?
1971年から1997年4月までの間、塩近代化臨時措置法という法律がありました。この法律は、工業を近代化させるために、揚浜式塩田や入浜式塩田が立地していた海浜を有効利用したいという政府の思惑と、工業で使われるソーダ(塩のこと)を天候に関わらず、安定供給したいという工業界の思惑が一致して成立した法律でした。このため、揚浜式塩田や入浜式塩田は、一部の神事・観光・研究目的の生産を除いて、日本からは姿を消し、電気の力で海水中のイオンから精製する、味気ない塩だけが残りました。
1997年4月に塩近代化臨時措置法は撤廃され、塩事業法が施行、また2002年4月からは塩事業法も撤廃され、やっと塩の製造が完全自由化されました。
【3.塩の種類】
3−1.精製塩(旧専売公社の塩、旧JT塩)
1997年までは、食卓塩と言えば基本的にこの専売公社が販売する精製塩でした。精製塩は、水分を吸って固まることを防ぐために、炭酸マグネシウムが0.15%添加されており、サラサラの塩となっており、一方、塩化ナトリウム(NaCl)の純度が99%の塩です。マグネシウムやカリウム、カルシウム等は1%以下しか含んでいないため、単一な味で、うま味に欠けています。
3−2.再生加工塩
塩近代化措置法により、専売公社の塩を買う以外になかったときに、ミネラルを含む塩の流通を望む消費者運動が起こり、製造を認められた加工塩です。塩化ナトリウム(NaCl)の純度が99%の原塩に、にがり成分のミネラルを添加して作ります。商品名としては、赤穂の天塩や、伯方の塩、瀬戸のましお、シママースなどがあります。
3−3.自然海塩
揚浜式塩田や入浜式塩田で作られる塩になります。
3−4.岩塩
地層に含まれる岩塩を採掘して取りだした塩です。
【4.塩のちから】
4−1.水分をひきだす
きゅうりの塩もみなど、きゅうりに塩を振りかけておいておくと水分を絞り出すことができるようになります。塩の浸透圧による水分の引き出し効果を利用したものですね。
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ぬか漬け |
4−2.グルテンのねばりを高める
小麦粉に塩を加えて練ると、小麦粉に含まれるグルテンの働きが高まり、ねばりが強くなります。このねばりは手打ちうどんのコシの強さの秘訣です。なかでもそうめんは、グルテンの働きを極限までひきだす量の塩が加えられた小麦粉の製品です。逆に天ぷらの衣を作るときのように、粘りをだしたくないときには、塩は加えませんし、なるべく練らないようにします。
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手打ちうどん |
4−3.タンパク質を固める
かまぼこを作るときに、すり身に塩を加えると急に粘りが出てきます。粘りがでたすり身をかまぼこの板にのせてから1時間ほどおくと、しっかりと固まり、弾力のあるかまぼこを作ることができます。
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かまぼこ |
また、たまごをゆでるときに、湯に塩を加えておけば、殻にひびが入っても卵白が溶け出しません。魚を焼くときや、肉を焼くときに焼く直前に塩を振りかけるのも同じです。熱でタンパク質は固まる性質がありますが、塩を振りかけておけば、魚や肉の表面が早く固まる性質があるのです。早く固まれば、うまみのたっぷり入った汁が、溶けだしてしまうのを防ぐことができます。
4−4.防腐剤としての塩
塩分濃度がある程度高いと細菌の多くは繁殖することができなくなり、さらに塩分濃度を高めると、生存すらできなくなってしまいます。これは、
1.塩が持つ浸透作用と、脱水作用により、食べ物に含まれる自由水を減少させて水分活性を低下させること
2.塩素イオンの作用
3.酸素の溶解度低下による、好気性細菌の繁殖抑制
4.タンパク質変成による、微生物自身の原形質分離
など、塩が持つ様々な働きによるもののようです。 |
みそ |
4−5.よび塩(迎え塩)
塩出しするには1.5%濃度の塩水がいいようです。真水で塩抜きすると表面だけが水っぽくなってしまいますが、薄い塩水を使うとゆっくりと塩出しをすることになります。この「ゆっくり」という時間が大切なのです。苦み成分の塩化マグネシウムなどは塩化ナトリウムよりも塩抜きするのに時間がかかります。真水で塩だしをすると、塩化ナトリウムだけがとれた状態となり、苦み成分が残ったままとなってしまうのです。塩出しは、薄い塩水を使って、ゆっくりとするのが大切です。
4−6.発酵を助ける
塩分濃度が5%以下だと、食べ物をくさらせる腐敗菌がはびこることが多いようです。このため、塩分濃度を5%よりも高くすることで、食べ物を腐りにくくします。このような環境でも、発酵に必要な乳酸菌や酵母菌などにとっては、繁殖することができるため、味噌やしょうゆを作ることができるのです。
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みそ |
4−7.りんごの褐変を防止する
りんごに含まれるポリフェノールオキシターゼという酵素による酸化反応を0.3〜0.6%の塩分で止めることができます。
4−8.野菜の発色を安定させる ぬか漬けを作るときに塩もみをしますよね。塩もみは野菜から余分な水分をだすという目的もありますが、野菜の緑色を安定化させるという目的もあるのです。特になすなどは、塩もみをしていないとぬか床になすの紫色がとれてしまいます。
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ぬか漬け |
4−9.魚のぬめりをとる
海水と同じ2〜3%の塩分濃度の塩水で魚を洗うと、魚のぬめりがとれます。焼き魚を作るときには、ぬめりをしっかりと洗い流してから、水分をふき取って焼くことにしましょう。
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いかの塩辛 |
4−10.甘みを増す
おしるこにちょっとだけ塩を加えたことはありませんか。塩を加えると塩辛くなるどころか、砂糖の甘みを益々強く感じることができるのです。おしるこの場合だと、砂糖濃度30%に対して、加える塩の量は0.5%と、ほんの微量になります。
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きびだんご |
4−11.かおりを良くする
桜の葉を塩漬けにすると、クマリンという物質ができます。この物質は殺菌効果があるため、桜もちを作るときに包む桜の葉として利用されています。また桜もち特有の香りの元にもなっています。
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桜の葉の塩漬け |
4−12.肉の焼き縮みを防ぐ
かまぼこやロースハムのようなタンパク質に働き、保水力および結着力が高まります。これは塩を加えることによって、魚肉の筋繊維に含まれるタンパク質からアクトミオシンという物質が抽出され、水を取り込んでゲル化しているためです。ゲル化による保水作用で、加熱しても水分を容易には手放さず、肉の焼き縮みが少なくなります。 |
ロースハム |
【5.まとめ】
ここに挙げた内容は、普段の生活の中で既にご存じだったという方も多いはず。それでも改めて読み返すことで、あっそうなんだ、と思われたのではないでしょうか。塩は塩味をつけるだけではありません。塩分控え目にするときも、これらの働きを理解した上でやるのと、知らないでやるのとでは、メリハリの効かし方が変わってきますよね。
参考文献)
・21世紀こども百科科学館 小学館
ISBN4-09-221202-1
・「こつ」の科学 杉田浩一著 ISBN4-388-25096-1
・砂糖のひみつ さ・え・ら書房 小竹千香子
佐々木和子 共著 ISBN4-378-03857-9
・食品調味の知識 太田静行著 ISBN4-7821-0042-6
・食物保存の知恵 粕川照男著 ISBN4-87639-320-6
・天然塩の白松さん
の塩の種類
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