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びっくりのうまさ「手前味噌」
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家内が首都圏を中心に活動している生活クラブ生協の組合員になりました。この生協が販売している牛乳や豚肉、アイスクリームが大変おいしかったので、私はすっかりファンになりました。その生協が外国産の大豆に含まれる農薬や遺伝子操作の危険性を指摘しており、「じゃ俺も国産大豆を使って味噌を作ってみるか」と言って始めたのがこの味噌作りです。
実際に味噌を作ってみると、作り方は予想外にシンプルで、その割においしい味噌ができあがりました。ただ1つ難点があって、味噌を仕込んだことを忘れるくらい待たないと味噌はできあがらないんです。まぁ、時間という問題も人それぞれに感じ方が異なるんでしょうが…。しかしすでに私も、手前味噌作りのリピータです。
出来上がり重量4Kg分の基本的な材料
(我が家では、毎年この3倍量を目安に仕込んでいます)
用意しておきたい器具
味噌仕込み用樽
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ポテトマッシャー
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重石
ざる
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大鍋または圧力鍋
仕込み樽大のポリ袋…できれば3枚(なければ2枚)
消毒用のお酒
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Let’s start!
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作り方 |
写真 |
1 |
【大豆を準備する】 大豆は、洗ってから一晩水に漬けておきます。なお、水を吸った大豆は、2倍強に膨れ上がるので余裕のある容器を使うことと、たっぷりの水を入れておくことをお勧めします。
写真は今回利用した国産大豆、米麹、天然塩をセットにした1980円の味噌作りセット(販売者マルモ青木醸造)です。ただし通常は販売していないとか…
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2 |
はがれた大豆の皮が蒸気口を塞いでしまわないように、圧力鍋の1/3以下の量になるように小分けし、落とし蓋をします。水は大豆に対してひたひたよりもちょっと多めにして、加熱します。大豆の皮が浮いてきたら、取り除きます。
沸騰すると、灰汁がでてきますので、取り除き、その後圧力鍋の蓋をして煮ます。
煮る時間は、沸騰後15分/蒸らし20分です。圧力鍋が無いときは、ふつうの鍋で4〜5時間程度煮ます。 |
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3 |
【塩切り麹を準備する】 一握り(約30g)の塩を別容器に分けておき、それ以外の米麹※1と塩を混ぜ合わせます。
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4 |
【味噌たるを準備する】 樽は十分に洗い、酒を振りかけたポリ袋を二重にして樽の内側にセットします。
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5 |
【大豆をつぶす】 大豆が親指と小指で容易につぶれるくらいのやわらかさになったら、ザルを使ってゆで汁をしっかりときります。このゆで汁は、別容器に残しておき、後で種水として利用します。
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6 |
ジャガイモ用のマッシャー※2を使って、てきぱきと大豆をつぶします。 |
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7 |
【仕込む】 つぶした大豆が人肌程度の熱さになったら、3で準備した「塩きり麹」と混ぜ合わせます。このとき5でとっておいた種水を加えて、ハンバーグ生地程度のやわらかさになるようにします。
練った大豆だけでも、空気中に漂っている酵母菌の働きで発酵させることができますが、大さじ一杯ほどのお好みの味噌を混ぜ込むとなお良いでしょう。
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8 |
ポリ袋1枚を容器全体を包み込むように使用し、ポリ袋2枚(なければ1枚)を容器の内側に入れます。
一番内側のポリ袋の中に、つぶした大豆をソフトボール大の味噌玉に形作り、勢い良く投げ込む要領で容器に仕込んでいきます。投げ込むことで、余分な空気を排出しているわけですね。 |
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9 |
全量の大豆を入れ終わったら、表面をならし、さらに雑菌の繁殖を抑えるために、3で残しておいた塩を振りかけておきます。 |
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10 |
発酵中に出るガスを閉じこめたい、一番内側のポリ袋の口をとめ※3、落とし蓋をかぶせ、体重をちょっとかけて押さえます。
中間のポリ袋と、一番外側のポリ袋は、ゴミが入るのを防ぐだけですから、適当に閉じて構いません。 |
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【熟成させる】 熟成期間中には、材料の水分である「たまり」がちょうどひたひたにあがってくるように、重石を調整するようにしておき、熟成※4させます。直射日光が当たったり、酸素が混入することがなければ、熟成させる場所は特に選びません。
1〜2ヶ月後の熟成期間中の1回だけ、味噌を下から攪拌(切り返し)して、酸素を補給し、分量外の一握りの塩を味噌の表面に振りかけ、再びポリ袋を閉じます。(この時期の味噌は、仕込んだときの大豆の色のままで、香りもありません)
味噌が膨張してきて困っている方はこちらをどうぞ。
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【できあがり】 味噌は、夏越しした土用の丑くらいから食べられるようになり、秋口になるとうま味が増してきます。開封すると空気に触れるため酸化〔黒変して風味がなくなります)が始まるので、できる限り冷蔵します。また、全量を冷蔵できないときは、タッパーなどに小分けしたものを冷蔵し、樽に残った味噌はできるだけ空気に触れないようにして、冷暗所に保存します
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こでの「こつ」
※1 【米麹】
米麹はできるだけ新しいものを用意しましょう。米麹には、生の麹と乾燥した麹の2種類が売られています。生の麹はタウンページで『こうじ』の職業欄に何件か掲載されているはずです。また乾燥麹は、ジャスコやイトーヨーカドーなど大手スーパーの練り物を置いている冷蔵コーナーに『みやこ麹』という商品が置いていることが多く見受けられます。櫻井こうじ店さんを、例として下記に紹介します。2004.1.14更新
生の麹では大豆の重量比1.5倍を目安として用意し、乾燥した麹では大豆の重量比で等倍を目安として用意します。また生麹は香りがいい反面、もし10日以上保存するなら冷凍にする必要があります。この米麹は大豆のでんぷん質を糖化させるアミラーゼという酵素をもっており、この酵素が味噌作りに必要になります。ちなみにこの米麹によるでんぷんの糖化過程も、酵母菌による発酵過程※も乳酸菌の発酵も酸素は不要です。酸素があると産膜性酵母の繁殖など、良くないことばかりを引き起こします。
※正確には、酵母菌による発酵では微量の酸素がないと、増殖することができず、各種アミノ酸を作ることはできません。アルコール発酵だけでは、二酸化炭素とアルコールを作るだけで、アミノ酸の生成はされないわけです。ここに微量の酸素があると酵母は増殖し、適度にアルコール発酵もすすむことで滅菌しながらアミノ酸を増やすことができるのです。この酸素は仕込んだときに混入している酸素や、仕込んでから1〜2ヶ月目に行う切り返し時に混入する酸素が有効に働くようです。
もし海外に在住しているなどの理由で、米麹を入手できない場合は、思い切って自分で作ってみましょう。必要なのは20g〜30gの麹カビ菌です。この菌は前述のタウンページで、『こうじ』の欄に記載されている麹屋さんで購入することができます。ただし、麹屋さんだからといって必ずしも麹カビ菌を売ってくれるわけではないようですので、あらかじめお店に電話するなどして、売ってくれるかどうかを確認しましょう。もし麹カビ菌を入手できたなら、米麹をつくることができます。輸入などの手続きはその国の法律に従うようにしてくださいね。プロの場合、1gの麹カビ菌を使って、1kgの米を仕込むことができるので、本当は5gもあれば十分なはずですが、家庭の手作りでは雑菌も混ざる恐れがあるので、5倍〜10倍の量を使うといいでしょう。麹カビ菌から米麹を作る方法はこちらをどうぞ。
※2 【ジャガイモ用のマッシャー】
大豆をつぶす方法はいくつかあります。すり鉢ですったり、ミキサーで粉砕したり、足で踏みつぶしたり…etc.などです。ただ、すり鉢は、使い方に慣れが必要ですし、ミキサーは過負荷のために安全装置が度々作動しましたし、足はちょっと熱いとか問題がありました。そのような苦労を横で見ていた家内が「これなら使えるんじゃないの」と出してくれたのが、コロッケを作るときに使う、ジャガイモ潰し用のマッシャーでした。マッシャーだと、つぶそうとねらった大豆は的確につぶすことができ、大変作業がはかどりました。もし、ご家庭に無ければ、購入されても使い道があるかと思います。
※3 【ポリ袋の口をとめ】
味噌の醸造過程は、酵母菌による発酵です。酵母菌には、酸素を必要とする産膜酵母もありますが、大部分の酵母は酸素があるほうが生育は活発になるものの、酸素がなくても嫌気的発酵(アルコール発酵)により生育することができます。アルコールの生成により、他の雑菌の繁殖を押さえることができます。アルコール発酵は、糖を炭酸ガス(二酸化炭素)とアルコールに分解する反応ですから、ポリ袋を密閉状態にすると、発生する炭酸ガスがポリ袋に充満し、ポリ袋が膨れ上がってきます。この炭酸ガスは雑菌の繁殖を抑制する効果がありますが、ガスが多すぎるようであれば適度に抜いても構いません。また仕込み1ヶ月後に切り返しをするのは、切り返しをすることで酸素を補給し、酵母菌のアミノ酸等合成作用を促すためです。
※4 【熟成】
熟成期間は、秋に仕込んでも、春に仕込んでも、「一夏を終えた土用の丑」以降となります。また、熟成期間中に味噌の表面に白いカビ状のものが生えることがあります。この白いものは酵母の一種の産膜性酵母というものであり、見栄えも悪いですが、味噌の味も悪くしてしまいます。ただし、この産膜性酵母は、この酵母が繁殖して白くなった部分とそのまわりさえ取り除けば味噌として問題なく利用できるそうです。
※5 【マルモ青木醸造】
今回、このレシピを改訂するに当たって、生活クラブ生協が主催する、(株)マルモ青木味噌醤油醸造場の副社長を講師として迎えた「味噌作り講習会」に参加しました。また、その講習会の模様を撮影することとその撮影した写真をこのホーム頁に掲載する許可を快諾して頂いたことに感謝の意を表したいと思います。ありがとうございます。
なお、下記にマルモ青木醸造の連絡先を記しておきます。
連絡先:(株)マルモ青木味噌醤油醸造場
住所 :長野市鶴賀七瀬町421番地
電話番号:026−221−3868
※6 【灰汁がでてきますので、取り除き】
前日から水でふやかした大豆は、その水のまま火にかけます。このとき圧力はかけないのがポイントです。沸騰すると、大豆からたくさんの泡がたってきます。圧力がかかっていると、この泡のせいでふきこぼれがおきるのです。この泡(灰汁)を3分〜5分ほど、ていねいにとっていると、新たな灰汁はでてこなくなります。そうなってから圧力鍋に蓋をして、圧力をかけるようにすると、大豆のゆで汁が吹きこぼれることを、かなり減少させることができます。
※7 【味噌を下から攪拌(切り返し)】
切り返しは味噌の初期発酵期に必要な酸素を補給するために行います。このときに「青カビ」や「黒カビ」がでていればそれらを取り去り、切り返しを終えた後は、焼酎などのアルコール分を含ませたペーパータオルを味噌の表面に敷きつめ、さらにラップで覆うようにしてから密閉するようにします。まぁ密閉さえきちんとできていれば、アルコールやラップは不要です。酵母菌のアルコール発酵によって発生するアルコール分が同じ役割を果たすわけです。
※8 【味噌が膨張してきて困っている】
2006.5.21追記
味噌が膨張し“ふかふか”することがあります。これは味噌の“湧き”と言われる状態です。
1.塩の分量を減らしたレシピである
2.30度を超えるところで発酵させている
3.種水が多い
4.米こうじの比率が大きいレシピである
5.ポリ袋ぴっちり方式を採用していない
などの場合に発生します。酵母菌が活発に繁殖している一方で、呼吸ができず、アルコール発酵により炭酸ガスを生成するために膨張し「ふかふか」とした状態になるのです。一方、味噌の成分としてのアミノ酸は、豆を分解するときに生成されますが、このタンパク質の分解には、酵母であっても手こずるため、そう易々とは増えません。こうなると複雑なアミノ酸の比率が低下し、うまみとしてはうすっぺらいものになってしまう懸念を伴います。つまり決して好ましい状態ではありません。
そこでこのような状態になることを避けるために、酸素の補給を行います。
1.しゃもじで良くかき混ぜることで酸素を補給します。(余分な炭酸ガスを排出することにもつながります)
2.塩の分量を減らしたレシピの場合には、塩を追加しておくと良いでしょう。
3.湧きにより味噌が盛り上がり、たまりに浸からないことを避けるために重石を重くします。
これらの対策を施すことで、たまりが上がってくれば、オッケーです。あとは通常の保管方法に戻します。
※9 【赤味噌と白味噌】
赤味噌と白味噌の違いは醸造工程の違いによるものです。白味噌は大豆を煮て、発酵は比較的低温または短期間であり、切り返しはあまり行いません。それとは対象的に赤味噌では大豆が褐色になる成分を煮出さないようにするために蒸し、比較的高温または長期間熟成させ、切り返しを行うことで空気に触れさせます。
※10 【警告】
注意喚起です。手作り食品のなかでも発酵食品は、器具や器具を扱う手などに雑菌がついていると思わぬ事故を招く場合があります。衛生には十分に気をつけて、楽しい食品づくりを心がけるようにしましょう。また、嫌な臭いがちょっとでもしたら口にするのは止め、廃棄する勇気をもちましょう。何事も自己責任の意識をもって行動してください。
訂正:2002.6.26 みその発酵をアルコール発酵と説明していた部分を修正
※11 【お勧めコーナー】
お味噌のことが丸ごとわかる本―Enjoy MISO Life (趣味の教科書)
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誰でもできる手づくり味噌―はじめてでもできる極上の味 (単行本)
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とことんおいしい自家製生活。―自分で作る素材レシピ51 (単行本)
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もやしもん 7―TALES OF AGRICULTURE (7) (イブニングKC) (コミック)
※おもしろいです。7巻では
味噌を仕込んでいます
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参考文献
「湧き」について調査 伊勢惣
さんの 味噌作りQ&A 2006.5.21