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あめ    
甘いだけではありません 砂糖のちから

【1.はじめに】

 調理をする上で様々なシーンで砂糖が使われています。砂糖は食べ物に甘みを与えるわけですが、昨今の甘さ控えめの観点から、レシピの分量よりも砂糖を控えめにする方も少なくないのではないでしょうか?

 かくいう私も、家族から 『甘いなぁ』 と言われれば、私自身の裁量でもって、かなり自由に砂糖の分量を減らしてきました。でも砂糖について調べているうちにそんなに自由に加減していいものではないことがわかってきたのです。

砂糖のちから
砂糖の作り方

 砂糖のはたらきが単に甘さを添加するというものであるならば、砂糖の分量は減らせば減らすほど、現代の嗜好に添うものとなるはずです。でも砂糖漬けの砂糖の分量を減らしてしまっては、長期保存が効かなくなるのは誰でもが気づくところです。この他にも様々な意味で砂糖には、科せられた役割があるのです。

 砂糖の分量を加減するのは、この砂糖の役割とでもいうべき、砂糖のちからを理解した上でやったほうが、失敗を避けられると考えましたので、ここで紹介したいと思います。

 時間のない方はこちらへジャンプしてご覧下さい。

【2.砂糖の製造方法】

2−1.砂糖の原料

 砂糖は、温暖地方ではさとうきびから作られ、寒冷地では甜菜(てんさい)から作ることができます。

2−2.砂糖の製造方法

 さとうきびの作り方は、砂糖のページでも紹介していますが、ここでもおさらいをしておきます。

  1.さとうきびを細かく裁断し、ローラーで圧搾して甘い汁をとりだします。
  2.石灰を入れ、不純物を沈殿させます。  ←黒砂糖では行いません 
  3.水分を蒸発させます。  これで原料としての糖ができあがります。
  4.再度、湯にとかしてから、結晶を作り乾燥させます。

2−3.三温糖の誤解

 一般には三温糖が、上白糖よりも健康的という解釈が拡がっているようですが、これはある意味では誤解になります。上白糖の白さは決して漂白したための白さではなく、自然の白さです。逆に三温糖のうす茶色は、煮詰めたときに色着いてしまったり、カラメルで着色したものになります。

 三温糖が上白糖に比べて健康的という誤解を与えているのは、上白糖に比べて微量ながらミネラル分を多く含む点かもしれませんが、これは上白糖を精製して取りだした残り汁を煮詰めるために、残っているミネラル分がわずかながら三温糖に混入したものです。

 ですが、黒砂糖だけはミネラルを含んでいるといえます。黒砂糖は、糖液に石灰を入れて煮詰めたもので、ふつうの砂糖では糖蜜として分離するような成分も含んでいるのです。ただ原材料としてのカルシウムを含むわけではなく、混ぜ入れた石灰分のカルシウムが残っているだけになります。

【3.砂糖の種類】

3−1.種類とその特徴

 砂糖は、ご飯やいもとおなじ炭水化物の仲間です。ご飯やいもでは、でんぷんという形で保存されている分子を細かく切断すると、砂糖としての糖になります。糖とひとことで言っても、単一ではなく、次の表のようになります。

 糖質の分類  名称 構成している糖
単糖類  ブドウ糖(グルコース)   ブドウ糖
 果糖(フラクトース)  果糖
 ガラクトース  ガラクトース
二糖類  ショ糖(シュクロース)  ブドウ糖+果糖
 麦芽糖(マルトース)  ブドウ糖+ブドウ糖
 乳糖(ラクトース)  ガラクトース+ブドウ糖 
 パラチノース  ブドウ糖+果糖

 ちなみにでんぷんは多糖類に分類されます。

 どろどろとした水飴をご存じの方も多いはず。この水飴は、単に砂糖水(ショ糖溶液)を煮て水分を飛ばしたものではありません。上記の表にある麦芽糖を成分とするものになります。

 ショ糖とか麦芽糖とかいっても、どうせ同じ砂糖でしょ、と思われるかもしれませんが、砂糖水(ショ糖溶液)を煮詰めたものに強い衝撃を与えると結晶化してしまうことがあるのですが、水飴は結晶化しません。この性質を利用して、砂糖が結晶化して欲しくないときには、水飴を加えておくと、ショ糖の結晶化を防ぐことができます。これは砂糖水と水飴の組成の違いにあります。
 糖分子の最も小さな構成単位を単糖類と呼び、
果糖(フルクトース)、ブドウ糖(グルコース)、ガラクトースなどがあります。この単糖類が結合したものに、砂糖や水飴があるのですが、砂糖(ショ糖)は果糖とブドウ糖がつながってできた糖で、水飴(麦芽糖)は、ブドウ糖が2つつながってできた糖という違いがあります。この違いが衝撃を加えたときに結晶化しやすいかそうでないかの差につながります。

 では、普段お店でみかける砂糖は、それぞれどういった糖に分類されるのでしょうか?

 まずは黒砂糖ですが、製造方法のところでも説明しているとおり、黒砂糖は原料としての糖液を精製せずに、石灰を加えて沈殿させ、乾燥させたものです。このため黒砂糖はミネラルなどの不純物を多く含み、ショ糖の割合は75%〜86%と、他の砂糖に比べて純度が低くなっています。

 次にグラニュー糖や粉砂糖、角砂糖ですが、黒砂糖を精製したときに最初に結晶化されて取り出せる砂糖で、ほぼ純粋にショ糖のみから構成されています。粉砂糖はグラニュー糖を細かく粉砕したもので、角砂糖は微量の水分を加え、整形したものです。

 上白糖、三温糖を同じ分類で説明すると、驚かれる方もおられるかもしれませんが、この2つは基本的に同じ製法の砂糖で、ショ糖の割合は、97.8%前後です(※若干 三温糖の方がショ糖の割合は低くなります)。ただし上白糖は、不純物が少なく、三温糖は不純物が若干多いという差があります。

 製造方法の項でも述べていますが、上白糖と三温糖の差は、黒砂糖との違いのように、ミネラルが多いとか少ないとかを言っているわけではありません。精製の過程で最初に作られるのが上白糖であり、その残りをさらに乾燥させ、一部カラメル化したものを含むために茶色くなっているのが、三温糖になります。三温糖は一部だけが着色していると、製品としてのばらつきになってしまうため、一般にはカラメルを添加し、均質な色になるように着色しています。

 砂糖としては他に、工場で作られるブドウ糖果糖液糖があります。これはとうもろこしなど、穀物のでんぷんを分解してブドウ糖にしたものであり、一部が果糖(フラクトース)になったものです。単価が安く、砂糖の生産国を窮地に追いやっている要因のひとつです。

3−2.甘味度

 砂糖としてのショ糖やブドウ糖の甘さを甘味度といいますが、この甘味度は砂糖の種類によって異なっています。使う砂糖によっては、甘味度を加味して、分量を加減する必要があります。

甘味料 甘味度 ショ糖100gと同じ甘さにするための相対重量(g)
 ショ糖(砂糖) 約 100g
 麦芽糖(水あめ)   約 0.6   約 170g
 乳糖  約 0.27  約 370g
 ブドウ糖  約 0.55  約 180g
 果糖  約 1.15  約  87g

3−2.沸点

 砂糖は水を加えて加熱することで、その性質が変化してきます。砂糖を加熱していくと、はじめはトロッとした液体ですが、次第に粘りを持ち始め、色も茶色に着色しはじめます。また、急冷したときの性質も、結晶になったり、飴状になったりします。これらの性質を利用して、シロップやべっこう飴、カラメルソースが作られます。

項番 温度 状態 用途
1. 60〜70度 泡が立ちはじめ、100前後で全体が煮立つ。 105度で煮詰めるとシロップ
2. 110〜120度 細かい泡がでます。 この温度で煮詰めて急冷するとフォンダン(白っぽくなります)
3. 150〜160度 全体が黄金色になります。 急冷するとべっこう飴
4. 180〜195度 焦げのにおいと、濃い茶色に着色 茶色に着色後、湯を少量加えるとプリンに使うカラメルソース

【4.砂糖のちから

4−1.味を整える

 砂糖は、甘みを与えるというだけではありません。酸味の強いみかんや、苦みのあるコーヒーに加えることで、こういった味が苦手な人にも受け入れられるようになります。他にも魚の臭い消しの役割や、辛さの刺激を和らげる働きもあります。

4−2.でんぷんの老化を遅延する

 でんぷんを加熱して食べやすくしたものに砂糖を加えておくと、長い間おいしく食べることができるようになります。大福やわらび餅がいつまでもやわらかいのはこのためです。でんぷんは、ブドウ糖が長く連なってできたもので、いくつかのでんぷんどうしも弱い力でつながった状態になっています。


わらび餅

 このでんぷんを加熱すると、弱い力でつながっていた部分が切断されて、水分子が入り込み、消化吸収がしやすい状態になります。この状態をアルファ化(糊化)といいます。アルファ化したでんぷんは、水分量が多いと自由に動けるため、冷めるとちぎれていた部分が、再びつながろうとし始め、元の状態(老化(ベータ化))に戻りはじめます。

 ところがこのときに砂糖があると、砂糖が水分を抱え込んでしまうためでんぷんは自由に動けなくなり、老化しにくくなるのです。つまり、食べやすい状態になったでんぷんが長持ちするわけです。 

4−3.タンパク質の変性を遅くする

 砂糖にはタンパク質の変性を遅くする効果があります。卵白を泡立てるというのは、卵白を空気に触れさせて乾燥させ、卵白のタンパク質を変性させているのです。

 砂糖を加えると、卵白のタンパク質が乾燥しにくくなります。卵白がなかなか乾燥しないため、結果として空気を包み込むことができなくなるため、粗い泡がたたず、細かな泡が作られます。細かい泡は、粗い泡よりも安定性が高いため、長時間たってもしっかりとした細かいメレンゲが維持できるようになるのです。

 メレンゲの安定性に関係するのは、細かい泡だけがその理由ではありません。泡立ったメレンゲも、再び卵白のタンパク質が水分を吸収すると分離してしまいますが、余計な水分を砂糖が抱え込んでしまうと、メレンゲは安定した状態になります。

ショートケーキのメレンゲ
かるかん

 このような仕組みがあるわけで、メレンゲには、砂糖を加えているのです。加える砂糖の分量としては、卵白と同量が適当のようです。ただし、はじめからその分量の砂糖を加えていると、泡立てるのに多大な労力を必要とするため、一般的には砂糖の半量をはじめから加えて1〜2分間泡立てておき、残りの砂糖を加えてから、さらに2分ほど攪拌すると良いメレンゲになるようです。

4−4.ケーキに焼き色をつける

 牛乳や卵などのアミノ酸を含むものと、砂糖をいっしょに加熱すると、ホットケーキのようにうす茶色に色づきます。これはアミノカルボニル反応(メイラード反応)と呼ばれるもので、砂糖に含まれる還元糖(ブドウ糖や果糖など)とアミノ酸が、150度以上の高温で化合する反応になります。香ばしい香りはこの反応によるものであり、単に焦げただけなのではないのです。


マドレーヌ

4−5.ジャム化する

 いちごジャムは、砂糖が飴状になったものではありません。この粘りはいちごが持つペクチンという物質が働いており、砂糖にペクチンと酸を加えて煮ると、ゼリー状になる性質を利用したものなのです。


桑の実ジャム
4−6.固まる

 ショ糖を純粋に含むものほど結晶化しやすく、飴状になりにくいものです。このショ糖に水あめに含まれる麦芽糖などが混合すると、冷えても結晶にならずに、なめらかな飴として固めることができます。


あめ

4−7.パンの発酵を助ける

 パンの発酵には、イーストと呼ばれる酵母菌が働いています。イーストはパン生地に含まれる糖分をえさにして、繁殖しますが、そのときに二酸化炭素とアルコールを生成します。このときに生成される二酸化炭素を、焼いたパン生地が抱え込み、膨らんだものがパンです。


天然酵母パン

 つまり砂糖はイーストにとって食料になっており、膨らみを作る元になっているのです。

4−8.長期保存が可能になる

 砂糖漬けは、細菌が生存するための必要な水分を奪ってしまうことで、長期保存を可能にしたものです。また、砂糖には脂質の酸化を妨げる働きもあります。酸化は空気中の酸素が食品にとけ込むことで、色や味、香りを劣化させるはたらきですが、砂糖の濃度が高まると酸素が食品に溶解しにくくなり、酸化を防げるのです。

 砂糖は、天然の防腐剤・安定剤というところですね。


梅ジュース

4−9.食品に照りを与える

 砂糖を加えた黒豆や魚の煮付けなどは、色つやがよくなります。チャーシューの照りの良さもご覧のとおりです。  色つやがいいと食欲もそそりますね。(^_^;)


鶏肉チャーシュー
     

【5.まとめ】

 砂糖に関して、製法や種類、そしてはたらきなどについて述べてみました。虫歯の原因になるとか、肥満の原因になるような悪者扱いされることが多くなってきた砂糖ですが、炭水化物の中でも砂糖は、脳にとって最も必要なブドウ糖を、短時間で供給できるおりこうさんです。だらだらと絶え間なく食べ続けることには、問題を抱えていますし、炭水化物の摂取にはビタミンB1が消耗されるというという点は否めませんが、砂糖だけが悪者扱いされるのは、ちょっと違うようですね。

 砂糖がもついろいろなはたらきを理解し、適度な摂取方法で、適度な量を上手に食べるのが、砂糖のかしこい利用法ですね。

※ 【お勧めコーナー】
「こつ」の科学
調理の疑問に答える
食の科学
食べ物の知恵をさぐる
食の総合学習
パリ砂糖漬けの日々
ル・コルドン・ブルーで
学んで
砂糖の絵本
つくってあそぼう

参考文献)

1.砂糖 平凡社カラー新書 平沢 正夫著
2.砂糖屋さんが書いた砂糖の本 西尾 弘二著 ISBN4-915607-46-1
3.砂糖のひみつ さ・え・ら書房 小竹千香子 佐々木和子 共著 ISBN4-378-03857-9
4.「こつ」の科学 杉田浩一著 ISBN4-388-25096-1
5.食品調味の知識 太田静行著 ISBN4-7821-0042-6
6.食物保存の知恵 粕川照男著 ISBN4-87639-320-6
7.男の食彩 2001年11月号 男の菓子道ダックワーズ

 

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