横須賀市には大震災難民が発生する 


1.電力設備とガス設備

2.被災していない国内および諸外国から横須賀市に救援物資は届けられるか

3.では国内から救援物資は転送されてくるのか

3−1.トンネルで接続された陸上輸送路

3−2.建設工法によって耐震性能が変化する海上輸送路

3−3.ヘリコプターと操縦士が不足する航空輸送路

4.非常用食料と非常用燃料

5.避難先への経路と交通手段

6.最後に


1.電力設備とガス設備

 阪神淡路大震災では、電力設備やガス設備が至る所で被災したことから,、エネルギーの供給は一時的に停止した。特にガス設備は、電力設備に比べて局所的な供給再開を行うことが難しく、応急復旧という形での供給再開が行えないために、約半年間にわたる本格復旧を待つこととなった。このため、ガス供給が再開されるまでの数ヶ月の間、ガス設備に比べて比較的早い時期に応急復旧を完了した電力設備からの送電によって、被災者の生活は、かろうじて支えられることになった。

 では、東海地震が発生した場合にも、電力設備は、数日のうちに応急復旧することができて、被災者の生活の支えとなることができるだろうか。発生する東海地震の規模にもよるが、答えはNoである。まず、阪神淡路大震災では局所的な被災であったために、全ての人のエネルギーを電力の供給によって賄うことができたが、東海地震では被災することが予想される地域が広範囲に渡るため、被災者の数も膨大になる。つまり、仮に電力設備の復旧が数日のうちに完了できたとしても、ガスを利用していた膨大な数の被災者が電力に切り替えるとすると、発電能力を越えた電力需要が発生し、電力供給そのものがストップしてしまうのである。

2.被災していない国内および諸外国から横須賀市に救援物資は届けられるか

 次に食料という面からの考察を行ってみよう。横須賀市という都市は、言うまでもなく首都圏に隣接した地区にあることは事実である。しかし、首都圏に隣接しているからといって救援物資が横須賀市に届くかどうかと言うとそれは別問題となる。過去の経験から言って救援物資は被災程度の大きさによって届けられるわけではなく、震災名のついた被災地へ届けられることが知られている。阪神淡路大震災のときには、震央は淡路島にありながら、「淡路島大震災」という名称にならなかったのはこのためである。政治的な力によって、「阪神」の名称が付けられ、「阪神淡路大震災」となった。結果的に見るとこの場合は「阪神淡路大震災」という名称で正解だったのかもしれない。しかし、阪神から北東に離れた一部の地域では「阪神」からはずれていたがために、活断層による被害を被ったにも関わらず、震災初期において救援物資が不足した。

 同様のことを東海地震が発生した場合の横須賀市にも起こり得ると、容易に類推できる。東海地震が発生した場合、震災名に「横須賀大震災」という名称が付くと考える方はまず皆無であろう。例え横須賀地域だけが極端に高い震度階分布となったとしても、人口が集中した東京圏を視野に入れた震災名称が付けられることが予想される。仮に「東京大震災」という名称が付けられたとしよう。この場合、救援物資の送付先として記述される名称は、「東京大震災の被災者御中」であり、その郵便物は直接横須賀市に回されることはない。とすると、ボランティアの方々や、行政によって配分された救援物資を待つこととなる。

3.では国内から救援物資は転送されてくるのか

 では、これらの「配給」がどのようにして横須賀市に配送されてくるのかを考えてみる。配送する手段として通常考えられる手段は、トラック輸送と、海上輸送である。また、阪神淡路大震災では、小回りが利くヘリコプターを活用する自治体が多かった。

3−1.トンネルで接続された陸上輸送路

 まず、トラック輸送である。トラックを使って横須賀市に物資を輸送する最も効率的なルートは、日本道路公団の有料道路である「横浜横須賀道路」を経由するルートを使うことである。このルートには高架橋とトンネルが多用され、市街地を経由することもないため、余計な渋滞に巻き込まれることもない。しかし、被災時にも、このルートがそのまま機能する可能性は、皆無とは言わなくても、非常に小さい。その理由はメリットでもある高架橋とトンネルの存在である。この横浜横須賀道路は比較的建設年度が新しいため、耐震性能や建設工法も良好なはずである。しかし、トンネルはその構造強度計算が正しくても、トンネル上部の斜面崩壊によって、出入り口を土砂が覆ってしまい、交通を妨げる恐れが残っている。事実、1997年8月25日に北海道の島牧村にある第2白糸トンネル(国道229号線)で発生した岩盤崩落事故後に、横須賀市が行った調査では、横浜横須賀道路の衣笠I.C.付近にある小矢部隧道(要確認)は、崩落の危険が指摘されている。そこで、横須賀市へのアクセス道路の中で、トンネルや高架橋を使わなくても良いルートがあるのかを調べてみた。手元の地図帳を見たところ、東京湾側の国道16号線や横浜横須賀道路は、度々トンネルを通過するルートになっている。また、三浦半島の西側の葉山ルートでは国道134号線を利用することになるが、逗子市、および葉山町においてトンネルを通過することになる。そのルートには代替ルートもあるが、道幅が狭く、旧家屋が並んでいるために道路上に家屋が倒壊してしまう恐れが高い。つまり、陸上輸送経路は期待できなくなるわけである。

3−2.建設工法によって耐震性能が変化する海上輸送路

 海上輸送はどうだろうか。阪神淡路大震災では、神戸港の岸壁の多くが被災し使用不能となった。その理由の1つとして岸壁を作っている建設工法にあったという新聞記事を読んだ覚えがある。神戸港の場合、ケーソンという箱形の入れ物を海に沈めて、コンクリートなどの中詰めをして、護岸を建設していた。このケーソンは地震の揺れによって液状化した地面に押されて海側にせり出し、その分だけ後背地である地面が沈下してしまった。またこのケーソンの後背地には物資を移送するクレーンが設置されているが沈下によってクレーンが傾き、港湾としての機能が果たせなくなったものである。現在岸壁を建設する工法としてはほかに矢板と呼ばれる土止めを打つ工法など幾多の工法があり比較的コスト高ではあるが、、横浜港では東海地震対策として矢板工法を適用しているという記事であった。横須賀港がどのような工法を適用しているのかについては私自身の知識がないが、もし、建設コストを重視するあまりに耐震性能上の問題がある工法を適用しているのであれば、岸壁が崩壊し、海上輸送も期待できないことになる。

3−3.ヘリコプターと操縦士が不足する航空輸送路

 最後に残った航空輸送はどうか。阪神淡路大震災でも、空路を使った輸送は大変有効に機能したことが知られている。それは、日本の中でも関西、とりわけ神戸地域だけが被災し、その他の地域には大きな被害がなかったため、ヘリコプターなどの機材および操縦士などの人材を十分な量だけ確保することができたということが幸いした。しかし、東海地震が関東地域を襲った場合も同じかというと、地震による影響範囲が桁違いであるために、ヘリコプターなどの機材が揃わないばかりでなく、被災者の人数が大きすぎて、とてもヘリコプターだけで物資輸送を満足させられるわけではない。首都圏に必要な1日あたりの救援物資は食料だけでも○○トンであり、10トン積みトラック○○台となる。これは阪神淡路大震災で活躍した平均的な大きさのヘリコプターが○kg積載可能なことから換算すると、ヘリコプターを延べ○○機も用意する必要があることになる。日本で登録されているヘリコプターの数は、平成10年3月現在で○○機であり、操縦士の数は○○人であるから、とても実現できる数ではない。

4.非常用食料と非常用燃料

 一般的に食料は3日間用意しておくというのが、日本では常識となりつつある。逆に言えば3日経てば行政や支援団体による救援活動が機能し始めるであろうというわけである。しかし、それはあくまでも一般論である。ここまでで述べたように、横須賀市の場合は問題が山積みである。行政といっても、行政の方々も人の子である。多くの役所の方々の家族も我々一般庶民と同じように被災されているだろうし、本人も同様である。通常であれば、被災していない地域からの支援もあるだろうが、それらの方々も横須賀市に来られる前に東京23区と横浜市の惨状に驚き、交通網が寸断されている横須賀市までたどり着ける方はまずいないであろう。つまり横須賀市のことはあくまでも横須賀市民が自己解決するしかなさそうである。では、どの位の期間分の用意をする必要があるのだろうか。これまた、阪神淡路大震災の話になるが、救援物資は震災当初を除いて十分な量はあったようである。しかし、問題は、全ての地域にまんべんなく行き渡ったかどうかである。実際のところ救援物資は、不足した地域と十分に行き渡った地域が偏在した。救援物資が不足していることがテレビなどの報道によって知れ渡るまでには、1ヶ月程度もかかることを念頭にいれると、その期間はなんとかする必要があることを知っておくべきである。また、できることならば、早いうちに救援物資が届けられる地域へ難民のように移動した方がいいかもしれない。全ては状況判断である。

5.避難先への経路と交通手段

 車を使った交通手段は、まず機能していない。車はマヒした交通手段をさらに悪化させるおそれがあり、使うべきではない。オートバイや自転車、最悪の場合徒歩ということになる。阪神淡路大震災でも移動した多くの人の交通手段は徒歩であった。

6.最後に

 以上のことから、震災に見舞われたときには、県同士の約束事として、様々な援助を行うことが取り交わされている。しかし、東海地震ともなると、被害の大小こそあれ、関東圏全体が被災することが予想される。自分の県民が被災しているのに、わざわざ他の県民に手を差し伸べる知事がいるのだろうか。ここで述べたような境遇にある地域は、決して横須賀市だけではないはずである。自分が住んでいる地域を改めて見直してみて、どういった対策が必要かを考えてみることをお勧めする。日本人の場合はすぐに「お上がどうにかしてくれるだろう」という考えを持ってしまいがちだが、お上でもどうしようもないときがあるはずである。

 危機管理は、非常時になってからどうしようかと考えるのではなく、平常時からどのような問題が発生するのかを自ら考え、予想される問題に対してどのような対策を講じるかが大切である。つまり平常の準備と投資を怠ってはいけません。

     

 


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